青い衣を翻して鋭い斬戟を繰り出す男と身軽にそれをかわす少年。
二人が手にしているのは、無論真剣ではなく、訓練用の木刀だが、その気合は周囲を圧倒していた。
周りに集まる兵士達は固唾を呑んで勝負を見守っている。
「凄いなあ・・・。鳩羽将軍はやっぱり強いや」
「数寄若様もよくついてきますね」
「鳩羽様ー!頑張れ!」
「数寄若!気を抜くなよ!」
歓声を耳にしながら、妖ノ宮も声援を送る。
「鳩羽ー!」
鳩羽の動きが鋭さを増したように見えた。
数寄若の木刀が弾き飛ばされる。
鳩羽は手を下ろした。
「今日はこれまでにしよう。腕を上げたな、数寄若」
「はい!ありがとうございます!」
鳩羽と数寄若がいつもの顔で一礼すると、一気に場の緊張が解けた。
妖ノ宮は鳩羽に駆け寄ると、真新しい手ぬぐいを手渡した。
「はい、鳩羽。やっぱり鳩羽は強いわね!」
「ありがとう、妖ノ宮。だが、時折ひやりとすることがある。彼はいずれ、私を凌ぐ名将になるやもしれぬな」
「あら、そんなことありません!鳩羽だって、まだまだこれからじゃないの」
反論しつつ妖ノ宮は、鳩羽が複雑な表情で数寄若の方を見ているのに気づいた。
『あまり有望すぎるのも、困りものかもしれぬがな・・・』
数寄若を紹介してもらった時、鳩羽はそんなことを言っていた。
妖ノ宮がそのことについて尋ねると、鳩羽は苦笑した。
「数寄若はあくまで私の協力者であって配下ではないからな」
数寄若はかつての主・継義が死去してからというもの、使えるべき主を見出せずにいるようだ。
つまり、彼が新しい主君を見出し、それが神流河に――――あるいは鳩羽に敵対する人物であれば、彼の存在は大きな脅威となるだろう。
「でも、まだ数寄若には大軍を動かすほどの力はないのでしょう?」
「そうだな。神流河を滅ぼすことはできまい。だが、四天王の一人を葬るぐらいのことは、できるのではないだろうか」
「そんな・・・・・・」
妖ノ宮は衝撃を受けた。
「それぐらいのことならば、大軍を使う必要は無い。地の利を生かす能力があれば、少数の兵でも大きな打撃を与えることはできる」
「・・・・・・」
妖ノ宮は唇を固く結んで数寄若の方を見ていたが、決意に満ちた表情で鳩羽を見上げた。
「私が忠誠を誓うに足る君主になればいいのね」
「ああ、あなたならできるだろう」
鳩羽は彼女に微笑みかけた。
「休憩は終わりだ。訓練を再開する!」