青い衣を翻して鋭い斬戟を繰り出す男と身軽にそれを跳ね返す少年。
二人が手にしているのは、当然真剣ではなく、訓練用の木刀だが、それでもその気合は周囲を圧倒していた。
周りに集まる兵士達は固唾を呑んで勝負を見守っている。
「凄いなあ・・・。鳩羽将軍はやっぱり強いや」
「数寄若様もよくついてきますね」
「鳩羽様ー!頑張れ!」
「数寄若!気を抜くなよ!」
歓声を耳にしながら、妖ノ宮も声援を送る。
「数寄若ー!」
数寄若の瞳に力が籠った。
鮮やかな朱色が疾風のごとく駆け抜ける。
直後、鳩羽が木刀を取り落とした。
「参った。数寄若、腕を上げたな」
「いえ、まぐれです。ご指導ありがとうございました!」
二人が一礼し、数寄若をわっと兵達が取り囲む。
「凄いぞ、数寄若!」
弁太がばしっと数寄若の背を叩くと、真継も当然のような顔で頷く。
「俺達じゃ数寄若の訓練にはならねぇぐらいだからな」
蛍は安心した様子で数寄若に語りかけた。
「流石ですね、数寄若様。僕はずっとはらはらしていましたが・・・」
「まぐれだよ、まぐれ。でも、いつかは実力にしたいな!」
「はい、数寄若。喉かわいたでしょう」
妖ノ宮は数寄若に冷たい水の入った茶碗を差し出した。
「ありがとう、姫様!応援してくれて、嬉しいな」
「かっこよかったわよ、数寄若!きっと数寄若なら誰よりも強くなれるわ!」
「うん、そうなりたいね。正義様みたいにさ。正義様は、本当に強かったんだよ」
懐かしげに語る数寄若に、妖ノ宮は頷いた。
父正義が、数寄若の思うような「いい人」であったかどうかはわからないが、強かったことだけは確かだ。
「そうね。妖まで支配下に収めたぐらいだもの」
「いつか俺も、あんな冒険がしてみたいな。自分の船をもって、世界中を回るんだ」
瞳を輝かせて数寄若は語る。
妖ノ宮の表情が微かに曇った。
元気と好奇心に溢れた数寄若のこと、神流河も小さく思えるのだろう。
今は友人達のため、この地に留まっているけれど、いつか外に出て行ってしまう。
彼のいない神流河。それは、味気なく寂しいものに思えてならない。
「・・・遠くの世界が見たい?」
「うん!きっと面白いものや珍しいものが沢山あるんだ。姫様にも見せたいな」
妖ノ宮は大きく目を見開いた後、くすりと笑った。
「ええ、私も見てみたいわ。数寄若と一緒に」
神流河の外の広い世界。
自分とは無縁のものだと思っていたけれど、数寄若がいれば、
そんな途方も無い未来も、自分のものにできるかもしれないと、妖ノ宮はそう信じられるのだ。