――剣の勇者



 メイメイの店。
 絶えず鳴り響いていた槌の音が止み、静寂が戻る。メイメイはほっと吐息をついた。

「ようやく、完成したみたいだわね?」

 レックスは強い決意に満ちた瞳で高く剣を掲げた。ナップが彼に駆け寄った。まばゆい光が当たりに満ちる。その光の中から現れたのは――――。


「何だそりゃー!?」ナップがすっとんきょうな叫びを上げる。
 レックスの手の内で黄金の光を放っているのは、どう見ても、「ナウバの実」であった。
 レックスは気まずそうに生徒から視線を逸らし、言い訳するように呟いた。

「いや、だって、腹減ってたし、久しぶりに食べたナウバの実うまかったな、もう一本食べたいなーなんて思ってたらなぜかこんなことに…………」

 ヴィゼルが厳かに告げる。

「休むことなくお前が魔力を注ぎ槌を古い続けたたまものだ」
「何普通に話進めてんだよー!」あくまでも平常心の侍にツッコミを入れるナップ。
「久しぶりに満足のいく仕事だった……」
「おい、満足か!? 本当にこれで満足か!?」
「……ありがとうございます……」気の抜けた笑みを浮かべて例を述べるレックス。
「あとはその力を余すところなく戦場で見せてもらおう」
「あー、どんな力か見物だわねえ〜」




「なにはともあれ、めでたし、めでたし、にゃははははっ♪」
「めでたいのかなあ……」ぼんやり剣を見つめながら呟くレックス。
「強引にまとめる気かよ」呆れ顔でツッコミを入れるナップ。

 その二人を気にもとめずにメイメイは楽しげに言った。

「めでたいついでにその剣の名付け親になったげるけどぉ…………」

 メイメイはちらりと黄金のナウバを見やり、ふにゃっと表情を崩した。

「ナウバの剣でいいんじゃなぁい?」
「うわぁ、ネーミングまで適当だよ」

 もはや諦め顔のナップにレックスは満面の笑顔を浮かべ、
「とにかく剣は完成した! 俺はやるぞ、このナウバの剣に誓って!」

 高々とナウバの実を掲げるレックスの勇姿にナップは――――。

「ぶわっはははは!!!」
「なぜ笑う!?」

 爆笑せずにはいられなかった。




 遺跡深部

 苛烈な無色の攻撃に仲間達は苦戦を強いられていた。
 黄金色の光が、彼らの窮地を救う。

「ごめんよ、みんな遅くなって……」
「負け犬が、一匹増えたところでどうなるというのだ?」

 オルドレイクの嘲笑を断ち切るようにレックスは叫ぶ。

「今は、違う!」

 黄金色の光が溢れ出す。

「剣が…………」ヤードが絶句した。
「ヤード、あれはアタシたちの知ってる剣じゃないわね」スカーレルが小さく笑う。
「ナウバの剣……」なげやりな調子でナップがその名を告げる。
「剣なの? あれ……」ソノラが当然の疑問を口にすれば、
「あーあ、目の色までナウバ色だよ」カイルも呆れたように溜息をつく。
「あの剣の光は、先生の……別にどうでもいいけどさ」ナップが気の抜けたように語ろうとして、やめる。
「ピー……」
「面白いですー!」マルルゥは屈託なく笑う。
「まあ、それだけは確かじゃな」ミスミはそう締めくくった。




「――――あのぶざけた剣は貴様が造ったのか?」

 怒るべきかどうか、決めかねた顔でオルドレイクはヴィゼルに尋ねる。
 ヴィゼルはいつもの調子で淡々と答える。

「俺は、俺なりの都合で魔剣の修復を手がけただけにすぎん……。それをどう思うかは貴様の自由だ……」
「本当にどう思っても良いのだな!?]




「ファルゼン、手が震えてるわよ」
「ス、スマヌ、あるでぃら、……ふ……あっははは!」」
「レックス殿、こちらは片付きました」
「キュウマ、何でこっち見ないんだ」
「あー、なんかいつも以上にたりぃぜ…………」


「みんな! あと少しだ、頑張ろうな!」

 少々自棄気味のレックスの笑顔を生暖かく見守る仲間達。  この笑顔を守るために戦っていいのだろうかという疑問が彼らの胸中に芽生えたが、誰もそれを口にしなかった。




ナウバの剣の勇者 完