「あ、先生さん! お花を見にきましたですかー?」
「はい、少し休んでいきたくて」
嬉しそうに飛んでくるマルルゥにいつの通りの笑顔で答えながら、アティは草の上に腰を下ろした。ふわりと甘い香りが身を包む。頭上には鳥の声。空は透き通るように青く、太陽が暖かな光を降り注ぎ、風は微かに草木を揺らす。
「いい天気ですねえ」
「はいです! とってもいいお天気ですから、新しいお歌を練習していたですよ」
「どんなの? 聞かせてもらえる?」
「よろこんでー! ららら〜♪」
華やかに咲き誇る花々を眺めながら、その不思議な歌声に耳を傾けていると、アティは心に溜まっていた疲れがほぐれてゆくのを感じた。
歌い終えたマルルゥはアティの顔を覗き込んで、
「先生さん、元気になりましたかー? マルルゥのお歌を聞くと元気になるっていってましたから、頑張って歌いましたですよ」
そう尋ねた。アティは彼女に心からの笑顔を向ける。
「ありがとう、マルルゥ。とてもいい歌でしたよ」
マルルゥははじけるような笑顔を浮かべると、
「先生さん! 今度は先生さんの知ってるお歌を教えてください! マルルゥ、もっと色んなお歌を覚えたいです! それから、先生さんの好きなお歌も歌えるようになりたいです!」
「わあ、それは嬉しいですね。じゃあ、こんな歌はどうですか?」
アティはゆっくりと歌いだした。故郷に伝わる古い、懐かしい歌。柔らかな歌声が花園の中に満ちる。やがて、澄んだ高い声がそれに合わせて流れ始める。暖かな光が二人の上に降り注ぎ、白い花と緑の花のようにその姿を浮かび上がらせる。
「ふああ……」
いくつもの歌を歌った後、アティは小さくあくびをした。
(子守唄を歌ったせいでしょうか、眠くなってきました…………)
「先生さん、お昼寝ですか? マルルゥが子守歌を歌ってあげますですよ」
「そうですね……じゃ、お願いしましょうか」
「はいですよ〜♪」
ごろりと地面に寝転がると、花の香りはさらに強く、気分をほぐしてくれる。日の光は暖かく、まぶたが重くなっていった。
「らら、らんらら〜♪」
目を閉じ、心地良い歌声に誘われるまま、アティはゆっくりと眠りの中へ沈んでいった。
「おーい、マルルゥ!」
妖精の姿を求めて花園へやってきたヤッファは、安らかな表情で眠るアティとその白い帽子に埋もれるようにして熟睡しているマルルゥを発見した。
しばしその光景を眺めた後、ヤッファはまた来た道を引き返していった。