妖ノ宮が妖屋敷を訪れ、しばらく翠と一緒に遊んでいたのだが、そのうち伽藍の部屋にやってきて、そのふさふさの尻尾で遊び始めた。
急いで書き上げなくてはならない手紙があったので、伽藍は気にせずそのまま用事を済ませた。
だが、気がついてみれば、二人ともすっかり熟睡しており、身動きの取れない状態になっていた。
(ううむ……動いては姫たちを起こしてしまう)
仕方なく、伽藍はその姿勢のままで残りの仕事を片付けることにした。
ゆらゆらと、波に揺られるような感覚。
心地よい暖かさの中で、妖ノ宮は目を覚ました。
「…………?」
頭を起こして前を見る。
ようやく馴染んだ建物の中。
特徴的な癖のある髪。目の辺りを覆う布。
(えっ!?)
「妖ノ宮?」
「はっ、はい!あの……私は…………」
妖ノ宮は思わず顔を伏せる。
広い背の上は、不思議なほど居心地の良く、奇妙な安心感を覚えるのだった。
「よく眠っていたものだから、そのまま座所に連れてきてしまった。もうすぐ着く」
「はい……ありがとうございます…………」
火照った顔を俯かせて妖ノ宮はやっと答えた。
幸い、辺りに人はいないようだ。
こんなところを見られたら恥ずかしくて死にそうになる。
では、なぜ降ろしてくれと言わないのだろう。
このような暖かさを感じることがあまりにも少なかったからであろうか。
その温もりを心に刻むように、妖ノ宮は鳩羽の背にそっと額を押し当てた。