「キュウマさん、あの木は何ですか?」

 その視線の先には、薄紅の花が満開の並木。
ふわふわした薄紅色の雲に覆われ、辺り一帯は別の世界のようであった。

「ああ、桜の木ですね。シルターンにはよくある木です。他の世界の方には珍しいかもしれませんね」
「初めて見ました! 本当に綺麗ですね!」

 子供のように無邪気な笑顔で、アティは満開の桜を見上げた。
その赤い髪の上にもひらひらと花びらが降りかかる。

「楽園って、こんな世界なんででしょうね」
「そうですね。今もよいですが、花が散る時もまた見ものですよ」
「いつ頃ですか!?」

 目を輝かせて尋ねるアティにキュウマは少し困った表情で答える。

「その時の気候によりますから、はっきりとはわからないのですよ」
「うーん、そうですか……」

 アティはしばし桜を眺めながら考え込んだ後、ぱっと花が開いたように明るい笑顔で、

「じゃ、毎日来ればいいですよね!」と言い放つ。
「え……?」 「いいですか、毎日
見に来ても?」

 微かに紅潮した頬を彼女から背けて、桜並木を見上げながらキュウマは答えた。

「はい……。かまいませんよ、もちろん」

 アティは再び笑う。満開の花より眩しい笑顔で。