「どうしましたか、キュウマさん? そんなに私の目の色、珍しいですか?」
「え!? あっ、すみません!」
いつの間にか彼女の瞳を見つめていたことに気づき、キュウマはうろたえた。その顔が赤く染まっているのが淡い月明りの元でもはっきりとわかる。アティは楽しげな笑い声を上げた。
「いいですよ、気を悪くしたんじゃありませんから」
実際、彼女はそれが好きだった――――その暗色の瞳が自分の姿を追い、熱心に瞳を覗き込んでいるのが。もっとも、それに気づかれると面白いほどに動揺するのだが。
「私を見ていると思い出すのでしょう? ハイネルさんやリクトさんのことを。それなら、無理もないと思いますけど」
「――――そうです」
キュウマは表情を消し、空を仰ぎ見る。
薄墨を流したような雲が月を覆い、大地に影を落とす。
見上げる瞳は深い闇。その中に何が隠されているのか、窺い知ることはできない。
まだ、自分の知らない秘密があるのだと、このような目を見るたびに思い知らされる。
容易に踏み込むことはできないと感じつつも、アティは寂しさを感じずにはいられなかった。
アティは半ば無意識のまま足を動かして、キュウマの正面に回り、じっとその顔を見上げた。
「ア、アティ殿!?」
「うふふ」
真っ赤になって飛び退くキュウマを見て、アティは嬉しそうに笑った。
微笑を湛えつつも真剣な瞳で語りかける。
「キュウマさんはミスミさんとスバルくんをシルターンに帰してあげたいんでしょう? 私にも何かお手伝いできませんか? この島のみんなが人間を嫌ってたのも、人間に呼び出されて帰れなくなったせいだもの、人間の私が何とかしてあげられないかって思うの」
キュウマは地に目を落とし、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
「そうですね…………。遺言を果たさねば――――」
夜の闇よりさらに深い漆黒の瞳がアティを捉える。
「協力して頂けませんか、アティ殿?」
「――――はい」
考えるより先に答えが発せられる。その闇の中に引きずり込まれるように。
キュウマは、わずかに口の端を吊り上げたが、その瞳に宿った闇は晴れることがなかった。
アティの肩が微かに震えた。
「風が出てきましたね。 もう帰りましょう。 明日もまた忙しくなりますから」
「はい、明日も早いですものね……」
微かな寒気は夜風のせいだったのか。
白銀の髪が仄かに光る。
暗い夜道を照らす明りであるかのように、アティは後を追いかけた。