鳩羽将軍の陣地では、兵士達が雪掻きに追われていた。
慌しく一日が始まる。
妖ノ宮は座所の縁側から新しく生まれ変わった世界を興味深げに眺めていた。
野も山も白く染まり、神々しさすら感じさせる。
軒には氷柱が垂れ下がり、朝日を浴びて透明な雫を滴らせている。
灰色の雲はゆっくりと流れ、時折日差しを遮った。
妖ノ宮は雪を一掬い盆の上に乗せると、丸く形を整えた。
赤い南天の実を二粒、笹の葉を二枚くっつける。
小さなうさぎがそこにいた。
妖ノ宮はしばらく微笑を湛えてうさぎを眺めていたが、
やがて思い立ったように盆を抱えて座所の裏手と回った。
建物の裏側の薄暗い一隅。
日は当たらず、時折冷たい風が吹き付ける。
そんな場所で妖ノ宮を見かけた鳩羽は不審に思い、声を掛けた。
「妖ノ宮?ここは冷えるであろう。座所に戻られるが良い」
「寒い所に置いておきたかったの。部屋の中とか縁側じゃ、すぐ溶けてしまうでしょう?」
妖ノ宮の前には赤い目をした雪うさぎがちょこんと座っていた。
その隣に、一回り大きなうさぎが寄り添うように並んでいる。
「出来るだけ長く一緒にいられるように。――――この子達が」
妖ノ宮は少々慌てたように言葉を付け足す。
鳩羽は微笑し、
「ああ、ここしばらくは寒い日が続くという。しばらくはもつだろう」彼女に答えた。
「本当に?一緒にいられる?」
見上げる少女の瞳には真剣な光があった。
鳩羽は何か別のことを問われているように感じた。
戸惑いつつも、彼女を励ます。
「心配はいらない、妖ノ宮。いつかは溶けるにしても、その時は一緒だ」
「ええ、・・・そうよね。心配するようなことは無いんだわ・・・・・・。きっと。最後まで一緒だもの」
妖ノ宮は自分に言い聞かせるように呟きながら、両手を擦り合わせた。
白い指の先が赤く染まっている。
鳩羽は冷たいその手を包み込むように握り締めた。
「あなたも、ずいぶん冷えてしまっている。部屋に戻ろう」
「ええ、するべきことは沢山あるわ」
二人は歩み去り、二匹のうさぎだけが残された。
日が沈み、宵闇が辺りを包込む頃、白い雪がひらひらと舞い降りる。
二匹の白いうさぎは闇の中、いつまでも仲良く寄り添っていた。